もてまん


「千鶴子さん、何処行ってたんだよ」

「フランスさ」

「フランス?」

「繁さんに会いにね。

それとできればジャックに会いたいと思ってね」

「で、会えたんですか?」

「パリはすっかり変わってたよ。街も人もね。

色々尋ねて回っても、三十年前のことなんか覚えてる人、居る訳ないさ。

まぁ、当然と言えば当然なんだがね。

すっかり諦めかけて、ペール・ラシェーズ墓地に眠る繁さんとジョセフィーヌに会いに行ったのさ」


千鶴子が、ゴクリと唾を飲み込んだ。

口が乾いているのだろう。


「そこだけは唯一変わってなかった。

二人は静かに、あたしを受け入れてくれたよ。

で、しばらく二人と話してるとさ、誰かが近づいてくる足音がした。

振り向くと、そこにジャック、らしき老人が立ってたって訳さ」

「運命のいたずらってやつですね」

「そう、正にね。

髪は白く、全体にやや小さくなってたけど、確かにジャックだった。

ジャックも驚いてたよ、あたしがあんまり婆さんになってたもんでね。

お互い、心の中の姿は若いままなのさ」


千鶴子は、少し苦しいのか、小さく一つ深呼吸をした。