歩道に寄って、タクシーが止まった。
繁徳は舞を奥に押し込むと、急いでその後に続いて乗り込んだ。
「東京女子医大まで」
運転手にそう告げると、繁徳は手渡されたメモを広げて見る。
〈東京女子医大 西病棟B 六〇八 プレートなし〉
(プレートなしって、名前の表示がないってことかな)
そう言えば、と、繁徳は幸子が友人のお見舞いに行って、怒って帰って来た日のことを思い出していた。
『ホント面倒臭い世の中になったものよね、お見舞いに来たって言ってるのに、受付では病室番号教えてもらえないのよ。
結局彼女の家に電話して、番号教えてもらって。
家に誰もいなかったら、無駄足になるとこだったわよ』
何でも、個人情報保護法とやらのせいで、近頃の病院では、病室に入院患者の名前を明記しないこともあるそうだ。
そういう病院では、当然、誰がどの病室に入院しているのかも教えてもらえない。
正確に、誰がどの病室に入院しているのかを知る者だけが、その人にたどり着ける。
突然意外な奴が見舞いに来てくれたら、俺なら嬉しいけどな、と繁徳はその時そう感じたことを思い出す。



