九時少し過ぎ。

公園に、まだ舞の姿はなかった。

繁徳は、ベンチの横に自転車を止めると、なんだか気が抜けたように腰を下ろし、橙色の水銀灯をぼんやりと見つめていた。

繁徳の耳に、小走り走るサンダルの足音が聞こえてくる。

振り返ると、舞が息を切らして走ってきたところだった。


「シゲ、早いね、まだ十分たってないんじゃない?」


繁徳はベンチから立ち上がった。


「だって、お前、なんだか切羽詰まった感じだったから、俺、慌てて来たんだぜ」

「ごめん。

コンビニで雑誌買って来るって出てきたから。

その店の前、珍しく公衆電話がまだ残ってるんだ。

慌ててたら、雑誌買うの忘れて、戻ってたら時間かかっちゃった」


「お前、携帯持ってなかったっけ?」

「発信記録とか、見られるとやばいから……」

「苦労してんだな」

「まぁね」


舞が答えながら、目を伏せた。