「嗚呼、緊張するね」

「千鶴子さんでも、緊張することあるんですね」


繁徳は硬い表情のままの千鶴子にちょっと驚いた。


「あたしは、もともと気が小さいんだよ。

それにね、今日は曲がりなりにも一人の音楽家として、舞さんに一言いわないといけないと思ってね」

「聞く前から、考えても始まらないんじゃ……」

「まぁ、それはそうだけどね。

兎に角、大事な日なんだよ、今日は」


千鶴子は舞のことをそれ程気にかけていたのだ。

繁徳は何だか妙に嬉しい気持ちになり、千鶴子の緊張を解そうと話題を探した。


「こんな時、聞くのも何ですけど、千鶴子さん、舞にもフランシスや繁さんとの恋愛話、したんですか」


気に掛かっていたあの夜の舞との会話を思い出し、確かめてみた。


「いけないかい?」

「いけないって訳じゃ……」


繁徳は悪びれない千鶴子の態度を前に口ごもる。