幸子が広げた新聞を畳むと、その下から、ベーコンエッグとサラダを乗せた皿が現れた。

「パン焼くね」

と、幸子が立ち上がる。

繁徳は、冷蔵庫を開け、オレンジジュースを手に取ると、コップに注ぎ、一気に飲み干した。


「父さんは?」

「まだ、ぐっすりよ」

「疲れてるんだね、きっと」

「そうね。朝は早いし、夜は遅いしで、万年寝不足だからね。

人間、身体が疲れると、心も病むって言うじゃない。

父さんが何を悩んでるのか判らないけど、考え過ぎってこともあると思うし。

兎に角、母さんとしては、もう少し身体を休めて欲しいわ」

「父さん、有給とか溜まってるんじゃないの?

いっそのこと、一月くらい休暇とって、母さんと二人で、のんびり旅行でも行ってくればいいのに……」

「父さんもそろそろ五十じゃない、会社でも管理する立場だしね、なかなか思うようにはいかないんだと思うわ」

「明日、父さんをお願いね」


幸子の視線が、繁徳に真っ直ぐに向かってきた。


「何だよ、釣りに行くだけだぜ」

「そうね、ちょっと大げさだったかな……」

幸子は、焼けたトーストにバターを塗ると、アイスコーヒーと一緒に繁徳に差し出した。

繁徳は、いつものように、パンを卵の黄身に付けながら食べ始める。


(俺も、ワンパターンだな)


習慣は判っているけど、止められない。

繁徳はこの食べ方が、一番好きだった。

幸子は席に戻ると、繁徳の皿に新聞がぶつからないよう、今度は少し小さく新聞を広げ、また眺め出した。


(血筋だな、ワンパターンなのは……)


繁徳は妙に納得して、幸子が新聞を広げる姿を横目に、パンを口に運んだ。

そして、正徳の様子を気遣いながらも、いつも通りに振舞う幸子を見て、少しホッとするのだった。