最初のガラスの自動扉を抜けると、そこには小さな風除け室があった。


固く閉じられた扉の左の壁に、部屋番号と赤いボタンの並んだ金属製の電気盤が壁にはまっている。


(オートロックのはしりだな……)


と繁徳は妙に納得して、六〇一の左横の赤いボタンを押した。

繁徳の手には、にぶいスプリングの感触。

電子音も何も聞こえない。


(本当にこのボタンが六〇一に通じているのだろうか……)


繁徳がしばらく不安に思っていると、電気盤に開けられた丸いスピーカー状の穴から、

「はい」

と返事が聞こえた。

「あの~」

繁徳が申し訳なさそうな声を出すと、

「あぁ、坊やだね。今開けるよ。エレベータ上がって、六階の右奥の部屋だよ」


ちょっと突き放したような千鶴子の声がして、カチッという音の後に扉が開いた。


(俺、何してんだろ……)


繁徳は、特に深い考えも無しに、ここまで来てしまった自分の無謀さにあきれていた。

と同時に、次に何が起こるのかとワクワクする自分に驚いてもいたのだ。