「これ、千鶴子さんに」


繁徳が千鶴子に、無造作に花束を差し出す。


「嬉しいね、ありがとう。

スイトピーの花言葉は〈門出〉だったかね。

舞さんが選んでくれたのかい?」

「はい。

でも、私、花言葉って詳しくなくて……」

「いや、深い意味はないんだよ。

可憐なとこが、あたしも好きだよ。

二人共、ありがとう」


そう言うと、千鶴子は立ち上がった。


「じゃあ、気を付けて帰るんだよ」

「はい、本当に今日はありがとうございました。とっても楽しかったです」

「あたしもだよ」

「繁徳、舞さんを、ちゃんと家まで送るんだよ」


繁徳の目を見つめ、少々厳しい口調でそう言うと、千鶴子は花束を手にステージの方へと戻って行った。

途中、千鶴子はステージ一番前のテーブルに座った老婦人に声を掛けた。

二人は二言三言ことばを交わすと、繁徳と舞の方を振り返る。

繁徳と舞は、咄嗟に軽く会釈を返した。


(千鶴子さんの友達かな?)


間もなく千鶴子の姿は、舞台の袖から奥へと消えて行った。