身を傾けた途端、わたしの体は動かなくなった。

呆気にとられた。



……いや、見とれた。






「うっそ……」


列の先の机に座る男性。



髪は綺麗な黒で、細くて。

遠くからでも、色気を感じさせるあの人が…、漫画家なの!?




「おい、早く前進めよ!」

「えっ、あっごめんなさい!」


つい意識を翔一先生にとられていた。

わたしは列が進んでいるのに、気づかないほどに。




後ろから声をかけてきた男性は、不機嫌そう。

この人も、サインが早く欲しいんだなあ。

……わたしもだけど。







サイン会とは言っても、サインと握手だけだから案外早く進んでいく。

一人20秒くらいかな。




「ありがとうございました!」

あっという間に、わたしの前の人まできたサイン会。


前の女性は興奮ぎみに、翔一先生の手を握っている。

サイン会は混乱防止のために、待っている人は先生から2㍍くらい離されているシステム。




だから、まだ翔一先生の顔は見えない。


「…では、次の方!」

「は、はい!」




係員が前の女性を歩くように促せ、わたしを呼んだ。


そして、わたしの目に飛び込んできた光景。


「わぁ……」