この男は危険だ。
 
 そう、思っていた。
 
 わかっていたはずなのに。
 
 
 
 空が夕澄み始めた放課後の、本日最後の作業。
 
 ゴミを捨てにきた裏庭の。
 焼却炉の、向こうの茂み。
 
 なにげに目をやり、見つけてしまった、
 僅かに覗く見慣れたつま先。
 
 
 ゆっくりと、近付いてみれば。
 
 やっぱり――あの男がいた。
 
 
 キレイとしか言いようのない寝顔。
 無造作に投げられた足はすらりと長く。
 大木にもたれて眠る姿はまるで彫像のよう。
 
 なんて長い睫毛。なんて無防備な唇。
 額にはりつく金の髪が、あたしの胸をざわつかせる。
 
 ずるい。なんでこんなにキレイなのこいつ。
 
 男のくせに。不良のくせに。
 
 
 そう、わかってる。こいつは不良。
 あたしとは縁遠い札付きのワル。
 
 その証拠は顔を見れば一目瞭然。
 

 目の下のアザが、あたしとの距離を主張する。
 口元の傷跡が、あたしの知らない世界を見せつける。
 
 生々しいケモノの世界。
 

 近付いちゃダメだ。
 頭のどこかで警鐘が鳴る。
 
 だけど、歩き出した足は、どうにも止めようがなく。 
 脈打つ鼓動が思考をかき乱す。