三角楽は、電子ブレイン室がどこよりも好きだった。
一連のスケジュールが片付いた後は、必ずこの部屋にくる。

「やあ!
みんな調子はどうかな?」

たくさんの黒い箱が規則正しく並ぶ、無人のこの電子ブレイン室で、独り言にしては少し大きな声を発した。

すると箱に付けられていた、小さなランプが三角楽の声に応えるかの様にポチポチ点滅を始めた。
千を越える電子ブレイン達のランプの瞬きは、まるで蛍の大群の様だ。

「よしよし
みんな元気みたいだな」

三角楽は自分の子供でも見るかの様に、黒い箱達にやさしく微笑んで見せた。
彼は中央の赤い箱の前まで歩くと、傍にあった椅子を引いて座った。

「さて…
今日も楽しいお仕事だよ」

チロチロとランプが点滅する赤い箱を確認すると、三角楽はタイプライターを軽快に弾きはじめた。

三角楽はこのたくさんの電子ブレインの助けを得て、今までの実験やシミュレーションを行ってきた。

きっとはじめて三角楽と共にこれを目にした者は、少なからず違和感を感じるだろう。
三角楽は電子ブレインに対して、まるで人の様に接するからだ。

この電子ブレインは、一般に言う電子計算機とは全く異なるもので、それはまるで知能を持っているかの様である。

かといって名前から憶測されがちだが、「箱を開けたら人間の脳が入っていた」なんて事はない。
過去にそういうものも確かにありはしたのだが、極めてオカルト的な研究だった為に国際法により禁止された。