いつの間にか森は少し寒くなっていました。


キリギリスの周りに来ていた虫達の姿も、日を追うごとに少しずつ減って行きついにキリギリスだけになってしまいました。

それでもキリギリスはバイオリンを弾き続けていました。

アリは毎日ずっと遠くからキリギリスの姿を見ていました。

キリギリスの奏でるバイオリンの音もずいぶん小さくなったな、アリはそう思いました。

そしてまた何日も経って森は本当に寒くなりました。


草も枯れ、キリギリスの食べる草の露もなくなってしまいました。

アリはキリギリスを自分の家に招待しようと、キリギリスがいつもいる所に行きました。

キリギリスはバイオリンを置いて座っていました。

キリギリスの持っていたバイオリンは、壊れてしまって音がならなくなってしまった様です。

「ボクが言った通りだったでしょ?
 キリギリスさん、ボクのお家においでよ」

すると、キリギリスははじめて声を出してアリに言いました。

「キミが精一杯仕事をした様に
 ボクもボクが出来る事を精一杯したのさ」

キリギリスはそう言ってにっこり笑いました。

そして、そのまま動かなくなりました。

アリは初めてキリギリスが毎日一生懸命に働いていた事を知りました。