『こちらです。』

案内された先に例のバスボートがあった。

台車に載せられ
漁港のスロープから引き揚げられていた

紺色の船体に鮮やかなイエローの稲妻が描かれた舟は
バスボート特有の吃水が浅くひらべったいカタチだった。
『こいつの所有者は直ぐにわかりますね』
北川が尋ねる

『検査証があるさかい、分かりますやろ』

『ですね。急ぎませんから松下さんお願いします』
言うや北川は船の回りを見回しながら検分を始める。

不意に
『これですか』

と立ち止まった。

何やらメモを取り始めていた松下も
近付いて覗く

『そうなんですわ。何かの折衝やろかとも思うんです。』神妙な顔つきで先程の消防署員が答えた。


バスボートというのは
真上から見ると、縦長の三角形をしている。

したがって船体後部は、ほぼ四角いわけだが

左後部が一部えぐれていた

『なるほど』
北川はしゃがむと顔を寄せて覗いた。

松下も隣りにしゃがみ込んで『アテとるな』
と相槌をうった。

しかし
『そやけど、これは舟とちゃいますな』
とも言った。