大浦漁港というのは『漁港』とはいうものの

実のところ
何もない

せいぜい船着き場といったところだった。

無論
普段は人影もまばらである。

しかし
北川と松下が現場に到着した時は様子が違った。

滅多に見ない
消防車が二台、救急車が一台

それぞれ赤色回転燈を点灯させながら停っている

そのため

平穏な日常に慣れている
地元の人間達が自然と周囲に群がっていた。

余りに『事』が起こらない
その一種の退屈さが彼等を野次馬にするのだろう。


『あれかいな』
先に車を下りたのは松下だった
エンジンはかけっ放し

まるで
自販機で缶コーヒーを買うような素軽さにも見えた。

もっとも
犯罪現場に"あるべき"独特の『気配』はまるでなかった

北川も
『やっぱりただの事故か』

そう感じながら車を下りた