―あの妙な手首は
どうやって切断されたのか

北川は署に帰ったあとも
ずっと考えている

『凶器の特定』
それが
こういう事案―つまり死体損壊のケースでは決定的に重要である

渡辺検視官の報告書を何度読み直したか分からない

『彫刻刀ねえ…』
どうにも現実味がなかった


しかし
元来猟奇殺人というのは
立ち入れば立ち入る程に現実味から乖離する
そういう性格があることを北川も理解してはいる


『まだ居てはったんですか?』
北川一人しか居ない深夜の室内に
驚く程に大きな声が響いた

松下警部補だった

『松下さんはまだ帰宅なさらないのですか?』

『課長と一緒ですわ』

一緒というのは
この時間帯まで署内に残っているという意味ではなく

同じ件に関わっているという意味である