『ノコ(ノコギリ)ちゃいますやろ?』

『うん…ちゃうな』
渡辺はノギスを台に下ろし
切断面にルーペを近付けている

『松さんはノコの切断面見たことあるんか』
鼻が付くほど切り口に顔を近付けている渡辺が尋ねた


『何回か見てますわ』
検死の専門家相手に何かを語る知識もない
松下は慎重に言葉を選んだ

『ワシは専門外やから、詳しいことは分かりまへんけど…』
―切断面の印象が違う

そういう意味の説明をすると
『分かっとるやないか』
始めて渡辺検視官は表情を崩した

ノコギリの切り口は
―筋肉組織が前後に擂り潰される―
という意味のことを渡辺は語った

『ほれ(それ)にな、骨の切り口が…松さんも見てみ』
ルーペを松下に渡した

松下は拡大鏡を受け取り、渡辺検視官と同じように顔を近付ける
マスク越しにも刺激臭に表情が歪むのが分かった

『骨みたら分かるやろ?ノコやったら傷が往復しとるハズや、ほれ、ココとココ』


渡辺は先端が尖ったピンセットで
指し示す

―なるほど
検視官の指摘に松下警部補もうなづいた