捕食者の季節

『まいりますねえ』

署では"若手"の部類に入る坂本刑事が
パワーウインドのスイッチを人差し指で押し込んだ

無機質なモーター音
窓を全開にした


助手席の松下も
窓を開けるとタバコに火をつけた

『たまらんのう』

白い煙を肺から押し出しながら松下もうなずく


坂本が『まいって』いたのは実は臭いだ

保冷剤入のクーラーと言えども
腐敗した死体(の一部)から
その異様な臭気がどうしても漏れてくる


春めいた天気も手伝って
思わず窓から顔を突き出して外気を吸おうとした

『なんや、こういう(腐乱)ホトケさんは初めてかいな?』

口元を吊り上げる
松下の癖のある笑みが見えた

『ワシも署は長いけど、こういうのは初めてやからな』
―無理もない

そういう意味らしかった