―そんなはずがない!

節江は
目の前に打ち上げられた"それ"が

自分が思いつく"それ"―『人間の手』なんかであるはずがないそう思おうとした

何しろ
―大きすぎる


それでも
見てはいけないものを
見てしまったという

恐怖や後悔に
座り込んだまま動けなかった

飼い主の見慣れない行動に
マーチが
ようやく節江に寄って来た

両足を投げ出した格好で
湿った砂にへたり込み
途方にくれていた節江の手の甲をマーチが舐めた


その途端

『いやああっ!』
およそ自分自身
初めて発するような叫び声をあげた

驚いたマーチが
一、二歩飛び下がった


"あれ"を舐めた舌で
手の甲を舐められたことに

言葉で形容出来ない嫌悪を感じたらしい


着ているジャンパーの脇腹あたりで
摩擦で火傷するくらい
何度も手の甲をこすりつける

初めて
ポケットに携帯電話を入れていたことに気付いた