『ちょっと待て』
北川が制したのは、加藤が差し出すビールではない

―話がまるで見えない
そう言う北川に構わず話を続ける
『あの論文、"大気移動"ってのは要するに…』

『風の予測』だろ?
もったいぶる加藤の話にぶっきらぼうに北川が告げる


『そう。風向風力を数秒前に予測する演算処理とコンピュータ・プログラミングだよ。』

なお話が見えず
焦れ始めた北川が聞いたのは意外な言葉だった


『お前の天才的なプログラムがな、実戦投入されるぞ』

面白くて仕方ない様子で加藤は続けた


『なあ達明、お前UAVって何だか分かるか?』

『UAV?』

『"無人偵察機"ってヤツさ』

『そういえば、お前が入間に居た頃、随分聞かされたな』

『ああ4年前だったかな、結局あの時は導入見送りになっちまった』


ムスッとした加藤の表情がおかしかった

2007年度に空自は無人偵察機を導入しようとしたが

政府が計画中止を決めた


その夜
ほとんど一晩中
加藤の憤慨を電話で聞かされたことを思い出した

あの時も
自身の守秘義務を解除されたみたいに
何もかも明かしそうになる親友に

北川は冷や冷やさせられたものだ