『達明は卒論、覚えているか?』


『ん?何の話を―』

加藤と北川が
同じ理工学部で学んでいたことは既に触れた


と言っても

加藤忠宏は端的に言えば『落第生』というやつで

北川に助けてもらって
何とか毎週レポートを提出できたようなものである

加藤が言う
二人の卒業論文というのは
名前こそ連名の形だっただけで

実質的には北川の卒業論文だった


『確か…』
自分の卒業論文の主題を北川が思い出すより先に

『"フラクタル理論に基く大気移動予測"だろ』
まるで自分の卒論のような口調で加藤が告げる


『まったくお前は"天才"ってヤツだな。なんでサツカン(警察官)なんかやってんだよ』

冷蔵庫から勝手に缶ビールを取り出して
悪びれもせず北川にすすめる