―松下警部補ならどう考えるだろうか…

北川がメモに目を落としながら考えていると
暗幕が開けられ南窓から、冬の弱い陽射しが差し込んだ

県警本部による状況説明が終了した

『なお本件は現状"カクヒ"とするので、各所轄捜索員は少数に限定せよ』

県警本部長・山崎総一朗の声が
拡声器を通じた砂っぽい音で響き

室内は一斉にどよめいた。


『なんで"カクヒ"なんや?』
『こんなロク(死体)、ただのコロシと違うんか』

北川の周囲から
不満や戸惑う声が漏れた


"カクヒ"というのは
『最上級秘密事項』を指す隠語であり

通常は
特定の政治家を検挙する場合や
国際テロリストの手配の際
頻繁に耳にする

無論

滋賀のような田舎警察では
使用する場所も機会もほとんどない


はずであった。

―何かある
そう感じたのは北川だけではなかったはずであった。