『アレさえなかったら"ただの"水難でっしゃろ』


しばらく
二人の男は無言で大型四駆を背に漁港を見ていた。

ふと
北川は思い出した

『松下さん、これなんだか分かりますか?』

北川はポケットから
一袋のパウチを取り出した。
昨日
無残に押し潰されていた
強化プラスチックの繊維の隙間に挟まっていた

あの半透明の物体だった。

昨夜
署に戻った後
散々眺めてみたが良く分からなかった。

鑑識に回すという"手"もあったが
到底『事件』には思えなかったため手元に置いていた。


―昨日のボートの潰されていた場所で見つけた

そう
話しながら松下に渡した。

『ふうん…何ですやろな』
空にかざして光を通して眺めている。

―自分と似たようなことを
北川は松下警部補の仕草を無言で見ていたが

―案外、この男と自分は似た部分があるのかも知れない


何となくそう感じた。