松下が駆け出しだった頃
常に先任刑事に聞かされたのは

刑事という『疑う者』としての思考だった


何でも疑え
誰であろうがとにかく疑え

疑い抜いて嫌疑が晴れたら
なおさら
疑わなければならない

ただし
それは『論理的』に疑うことが肝要だと


そう聞かされ続け
今は松下の体内の血液すらも絶えず何かを疑っている。

そういう
この壮年の刑事からみれば
年下の刑事課長は
いかにも『甘い』ように見えた


それだけに
北川の論理的な思考に対して
少なくとも
一種の『信頼』のようなものを抱いたに違いなかった。