『朝早うか?』
咥えタバコのまま、鼻と口から煙を吐きながら
松下が捨男に尋ねた。

『そやなあ、早うちゅうても冬やさかいに』

―午前七時前後―というのが発見時間というところか

松下が手帳にボールペンを走らせる。


『変わったもんは見ぃひんかったんか?』

『なーんもありゃせんかったなあ』

北川は老人と松下のやり取りを耳にしながら
自身は、再びしゃがみ込んで傷跡を見つめた。


突然音もなく
曇の切れ間から冬の低い陽射しがあたった。


―ん?

何かが無残にひしゃげた強化プラスチックの繊維に
挟まっているのに気付いた。
日光を反射するように
輝いている


(何だろうか?)
コートのポケットから取り出した白手袋を付けた

指紋を付けないためと言うより
単にささくれたプラスチック繊維が刺さるおそれがあったからだ。

慎重に人指し指と中指を
傷跡に差し入れる

数センチ奥に
ガラス片を思わせる『何か』が光っていた。