『この舟を最初に見つけたのはどなたですか?』

不意に立ち上がると
北川は近くに居た消防署員に尋ねた

『あっちに居るおじいさんですわ』
署員の目線を辿るように後ろを振り向く

『なんや捨男さんかいな』

後を追って立ち上がった松下が、タバコを取り出しながら声をあげた。

松下には大浦あたりの主だった人の顔と名前が頭に入っているようだ。


捨男という老人は
いかにも漁師といった"いかつい"風情とは程遠い柔和な顔をしていた。

(湖国の漁師というのはこういうものかも知れない)

北川はそんな印象を持った。
『捨男さん、おせんどさん(ご苦労様)ですなあ』
先に声をかけたのは松下だ

『こないな騒ぎになってしもて、参りますわ』
思わぬ騒ぎになり戸惑っていたためか

見知った松下警部補の顔を見つけた老人は

肩から荷が下りたような

力が抜ける表情を見せた。