コウガに柔らかく微笑む黒髪の女性。
だが彼は知らなかった…
柔らかく微笑む女性の名を…
黒髪を風に靡かせる彼女の名を…
そこにいる女性は、彼が探すアリアではない…
「おぉ、コウガか」
立ち尽くす彼の名を呼んだのは、黒髪の男性ジョゼノフ。
名を呼ばれ女性から目を放すと、女性の傍に歩み寄る彼に尋ねる。
「ジョゼノフさん、アリアは…?」
と…
だが彼は首を傾げる。
「アリア……誰の事だね?」
「誰って…貴方の、娘じゃないですか…」
コウガの言葉に、何を言っているのか、と笑って見せるジョゼノフ…
女性の隣に立つと彼女の肩に手を乗せる。
「私の娘はロシェットだけだ。アリアなんて子は知らんな」
「そん、な……」
微笑み合う2人。
黒髪の2人は確かに似ている…
意味が分からない…
何が起こっているのだろう…
一体何が…
「どうしたコウガ?冗談を言うなどお前らしくない。変な夢でも見たのか?」
混乱しているのが分かったのだろう、ジョゼノフは心配するように言う。
あれは、夢なんかじゃない…
嫌、夢であって欲しい…
でも事実なんだ…
彼女は存在していて…
そして、ここで彼女は命を落とした…
なのに、元から彼女が居なかったように…
彼女の存在すらなかったような言動…
頭がどうにかなりそうだった…
気分が悪くなった…
呼吸が苦しい…
頭痛がする…
目眩がして座り込んだ…
2人は心配そうに何か言っている…
だが、何を言っているのだろう、耳に入ってこない…
座り込み頭を抱えていると…
『コウガ…』
自分の名を呼ぶアリアの声がしたような気がした…
優しい声に顔を上げると、スカイブルーの瞳に映ったのは、この教会を見守る女神の象…
その女神の象の頬には、血の伝った跡が、涙のように残っていた…
それが、それだけが、真実を現していた…

