生暖かな鮮血が身体を染める。

走り抜けるのは身体を斬り裂く鋭い痛み。

身体を貫く刃の切っ先からポタリと滴る血の雫。


誰もが息を呑む静かな空間で、床に落ちる血の音がやけに大きく響き渡る。




 「くっ……」


苦痛に顔を歪めるコウガの身体を貫くレイピア。


しかしその刃は彼の心臓を貫く事は無く、反れた切っ先は肩を裂く。




 「っ……ぅぅっ……」


バタリと音を立て床に倒れたのはライア。


首から噴き出す多量の血が床に広がり血溜まりを作る。


コウガの身体を染める血は自信の流したもので無く、倒れるライアの流したもの。




 「ハァ…ハァ……っ……」


驚いたようにコウガを見上げるライアは血を吐きながら苦しそうに息をする。


信じられなかった。
自らが負けた事が。

理解できなかった。
攻撃が外れた事が。


必ずと言っていい程確実に、攻撃は真っ直ぐに突き進んでいた。

なのに何故、その心臓を捉える事が出来なかったのか。

何故自分がこんなにも血を流し、今にも意識を飛ばしそうな状態に陥っているのだろうか。




 「くっ……」


その身に突き刺さるレイピアを引き抜くコウガはそれを投げ捨てる。


そして、既に血に濡れた剣を振り上げ、倒れ見上げるライアへと振り下ろす。




 「!?」


しかしその刃は弾かれてしまい、ライアにとどめを刺す事を不可能とする。


刃がライアを捉えるのを防いだのはスティング。


彼はライアを引き寄せ腕に抱く。




 「…この期に及んで敵に回る気か……?」


 「否、俺は君と戦う気など無い。君に俺が適うとは思ってもいないからな」


だったら何故、彼を助けるような真似をする?

警戒しながら目を細めるコウガ。
何時でも斬りかかれるよう剣を構える。




 「もうこれ以上、君が傷付く必要など無い。恋人の身体を傷付ける事程、辛い事など無いのだから」


丸腰の彼はコウガを見上げ、優しい声音でそう言った。