身に迫る鋭いレイピアの刃。
心臓目掛け真っ直ぐ突き進むそれを理解するも、決して退く気の無いコウガ。
彼はこのままで良いと思っていた。
このままその刃がこの身を貫いて、自らの命をもってこの戦いに終止符を打つ。
それが唯一の最善策であり解決法。
その他に優良な解決策など存在しない。
だからこのまま運命に抗う事も無く、この現実を受け止め刃を迎え入れる。
「「コウガ!」」
自らの名を叫ぶ声が聞こえてきた。
それは共に他愛のない日々を過ごしてきた仲間の声。
彼等とも、これで別れとなってしまう。
もう会う事も叶わなくなってしまう。
もっと彼等と共に居たかった。
もっと彼等の事を知りたかった。
もっと彼等と共に笑い合いたかった。
何事も無く、只平凡な日々を当たり前のように幸せに過ごしたかった。
でももう二度と、そんな日々は自分にやっては来ない。
やって来るのは死という重い運命。
もう変えようもない。
変えられようもない。
引き返す事の許されないこの道を、真っ直ぐに只前へとつき進むだけ。
『…コウガ……』
「!?」
仲間達の声に紛れふと聞こえてきた優しく柔らかな声。
下げていた視線を上げてみれば、1人の女性の姿が瞳に映る。
ライアの遙か後方、女神像の傍に佇むその女性。
腰までの長い黒髪に藍色の優しい瞳の彼女。
そこに居るのは紛れもなく、アリア・ダージェスそのものである。
「アリア……」
耳を疑い目を疑う。
これは幻想、幻、幻覚、幻聴。
自らの望む人物を死ぬ前に見ているのだろう。
現に彼女は此処に居る筈もないのだから。
でも、最後にその姿を目にする事ができて、二度と見る事のできないその華のような微笑みを見る事ができて、この状況を忘れ自然と笑みが零れる。
そして次の瞬間、目にも鮮やかな血飛沫が辺りに舞った。

