頭の中が混乱する。
何が正しく何が間違っているのか分からない。
「…誰…貴女は誰……?私は……私は……」
頭を抱えたティムリィは机の上に置かれた物を腕で払うと立ち上がる。
ティーポットが割れ零れた紅茶はシミを作り、転がる菓子は踏まれて跡形もなく粉砕した。
精神の崩壊した彼女は、何時の日か知らぬ内に自分とは異なるもう一つの別人格を創りだしていた。
それは自分を護ってくれる強い姉という存在であり、全ての苦痛を代替わりしてくれる存在。
両親から暴力や暴言を受ける際、もう一つの人格と入れ替わり、その人格が苦痛を全て引き受ける。
自分自身を護る為に創りだした人格を、彼女は姉だと思い込み、そう思う事で苦痛な日々から耐えてきた。
暴力を受ける他人を何処か遠くから見ているような感覚が、更にその思想を後押ししたのだろう。
と言う事は、ヴィネッド家を襲った犯人はティムリィ・ヴィネッド彼女自身。
信じたくは無いが、それは変えようもない事実となる。
「うぅ……ああぁぁぁーー!!」
ティムリィは乱暴に頭を掻くと声を荒げ暴れ出す。
花瓶が転げ割れた硝子が彼女の脚を傷付ける。
楽譜がヒラヒラと舞い、彼方此方にCDが散らばった。
「…居たのよ……御姉様は……私の傍にずっと……」
確かに、私には姉が居た。
全ての痛みや苦痛から庇ってくれる存在の姉が。
なのに彼女はそれを否定する…
だったら、だったら彼女を殺せば良い。
そうすれば、私を疑う人物は居なくなる。
姉を否定する人物が居なくなる。
それで全てが解決するのだ。
彼女を殺せば私は元の自分に戻れる。
咲き誇る薔薇を踏みつけたティムリィはシェイラを睨み、果物ナイフを手に取った。
鞘は抜け落ち床に転がり、ナイフを両手で握る彼女はゆっくり一歩ずつシェイラに歩み寄る。
「ティム……」
「…貴女が悪いのよ…貴女が……」
シェイラとの距離を確実に縮める中、棚に置いてあったバイオリンが突如転がり、ティムリィの行く先を塞ぐよう倒れた。
バイオリンに躓き足を踏み違え、彼女の身体はバランスを崩し倒れて行く。
その先には張り巡らされた鋭い弦。
目を見開き声をあげる事無く、彼女はその中へと倒れて行った。

