彼女を疑うべきではない。
自分が彼女を信じなくてどうする。
誰が何と言おうと、自分だけは味方になってやならければ。
しかし、心の何処かで彼女を疑う自分がいる。
疑ってはいけないと思う程、それは益々大きく膨れ上がってゆく。
「フフッ…フフフフフッ………ハハハハハッ……」
突然、声をあげて笑い出すティムリィ。
口元に手を添え笑う彼女の様子を怪訝な顔をして伺うと、彼女は堪えるように笑みを消した。
「ハァ…冗談はお止め下さいよシェノーラ様。私が人を殺した?そんな筈がないではないですか」
その言葉にホッと胸をなで下ろす。
良かったと、その言葉が零れそうになるのを耐え、シェイラは深く息を吐く。
「両親を、従者達を殺したのは私ではありません。安心なさいましたか?シェノーラ様」
クスリと笑う彼女を目にし、シェイラは恐る恐ると言った感じで重い口を開く。
「…貴女は、御両親を襲った犯人を知っているのですか……?」
「知っていますよ、それは」
場違いな質問かもしれない。
答えたくもない質問かもしれない。
しかし、彼女は何の迷いもなく直ぐに回答を口にした。
「私を救って下さった方ですもの。忘れる筈がありませんわ」
両親を殺した憎むべき相手。
その人物を知っているのなら、何故彼女はその真実を他人に打ち明けなかったのだろう。
犯人に怯え、その犯人を捕まえてくれと請うのが当前なのだが、彼女の態度は正反対。
むしろ、その犯人をありがたがっているようにも見える。
「貴女だけにお教えして差し上げますよ。私を自由にして下さった人物を」
秘密ですよ。と片目を閉じ唇に人差し指を添えて見せる。
「私をあの苦痛な日々から救って下さったのは、私を自由の身にして下さったのは……」
ゴクリと咽が鳴る。
真実を聞き漏らすまいと、神経は研ぎ澄まされ耳を澄ます。
シェイラの反応を楽しむように途中で言葉を止めたティムリィは口の端を吊り上げる。
「…貴女も御存知の、私の御姉様ですわ、シェノーラ様」
クスリと笑い、彼女は事実を打ち明けた。

