押さえつけられ身動きの取れない彼女は、上に乗り見下ろしてくる彼を睨むと頭突きを繰り出した。




 「いってーー!」


彼女が頭突きなどしてくるとは思わず、それを食らった彼は額を押さえ声をあげる。


掴まれた腕が自由になり、彼を押し退け距離を取る彼女自身も額を押さえた。



上体を低くし、レオンを睨むのは黄色と赤のオッドアイ。


額をさすっていたレオンは灰色の短い髪に目を細めた。




 「…お前…誰だ……?」


その灰色の髪は狼の血を引く一族のみが持つ特有の色。


しかし、その一族の血はたった1人を残し絶えたもの。


彼、レオン以外に未だ生き残る者は居ないというのに、目の前の彼女の髪色は彼の一族のものだった。



ピクリと動く彼の鼻。

鋭敏な嗅覚は微かな臭いに反応する。


僅かではあるが、自分と同じ臭いのする彼女。


だが、似ているようで似ていない。



眉を潜める彼を余所に、彼女、エルウィン・アウロウはローブを脱ぎ捨て地を蹴った。


一気に距離を縮め、飛んだローブを払う彼の左顔面を狙い蹴りを繰り出す。


それを腕で弾き拳を振るうレオン。


しかし、蹴りを弾かれた彼女は直ぐに逆の脚を振り上げ彼の空いた右顔面に狙いを定める。


右手は拳を振るっている為防御は不可能。


彼は舌打ちしながら身を反らしその蹴りをなんとか交わす。



後方回転し一旦距離を取ったレオンは靴先の掠った鼻先を擦る。




 「訊いてるだろうが、お前は誰だって……」


 「…答えたくない……」


 「はぁ?」


 「その問いに答えても、私には何の特にもならない」


 「自分の得にならない事に答える義理はないってか」


コクリと頷く彼女。

身を低くし戦闘態勢をとる2人は互いに睨み合う。




 「だったら、お前の得とやらになるもんは?」


 「それは……」


一度言葉を止め考える。
だが、直ぐに答えは見つかったのか彼を睨むと口を開く。




 「…それは、お前を殺す事だ」


拳を握ると、言葉を言い終える前に地を蹴った。