振り下ろされた刃はジークの喉を切り裂き、溢れ出る鮮血が辺りを赤く染める。
血の滴る剣を片手に壊れたように笑うローグのその声が、降り出した雨の音に混じり響き渡る。
血の海の中意識を手放し命を絶つ筈だった。
なのに、ジークは何の痛みも感じずまだ意識がある。
鋭い刃が振り下ろされる瞬間を目にしたのに、何故?
彼は真相を突き止めるべく目を開けた。
紺の瞳に映ったのは、風にはためく黒いマント。
数回まばたきをして確信した。
何者かがジークの前に立ちはだかり、振り下ろされた刃を受け止めているのだと。
「貴様、何者だ?」
「御挨拶遅れました、ベイン・ローグ様」
兵士の剣を奪いローグの邪魔をした目の前の人物。
ふっと吹いた冷たい風が、その人物の被っていた帽子を飛ばす。
「!貴様は……レグナード・ディ・ルーガン……」
風に靡く金髪に澄んだ青い瞳。十字のピアスが左耳で揺れていた。
露わになった彼の顔を目にした瞬間、ローグは驚いたように彼の名を口にする。
鋭く睨むレグルは動揺したローグを突き飛ばし、彼と距離を取った。
「レグル何故ーー」
何故此処に居るのか問おうとしたジークだが、頬に痛みを感じ地面に倒れた彼は途中で言葉を止めた。
痛む頬に指を添え身を起こすジークは自分を殴った張本人、レグルを睨む。
「何が死ぬ覚悟はできているだ……笑わせるな!」
命を捨てようとした彼に声を荒げるレグル。
拳を握る彼は苛立ちを露わにする。
「自分の為にお前が命を絶ったと聞いて、彼奴が幸せに暮らせると思ってるのか!?あの笑顔を取り戻すとでも思ってるのか!?」
地面に尻をつく彼の襟を掴むレグルはジークの瞳を真っ直ぐ見つめていた。

