ポツリと雨が降り出した頃、スウィール国を目指し馬を走らせていたローグは突然その馬の足を止めた。
彼の前方、スウィール国から1人、ゆっくりとした足取りで何者かが此方へ向かってくる。
鋭い眼差しを向けるその人物は、シェノーラの執事、ジーク・ブロッガー。
ローグの一番嫌手で一番殺したい人物である。
ジークの人を殺しそうな鋭い目つきに、護衛の兵士2人はローグを護るようにジークの前に立ちはだかる。
剣を抜き、距離を縮める彼に止まるよう促すが、ローグしか目に入らない彼は立ち止まる事はない。
警告を聞かない彼に兵士は剣を振るった。
普段の彼なら難なく交わす筈なのに、今の彼は周りが見えていないのか、兵士の攻撃を避ける事なく鋭い刃を身に受けた。
振り下ろした剣は彼の身体を斬り鮮血を辺りに散らす。
肩から脇腹まで斜めに斬られた彼は苦痛に顔を歪めながらも、斬りつけた兵士を突き飛ばし更にローグへと距離を縮める。
もう1人の兵士はローグに手を出す素振りを見せれば何時でも斬りかかれるよう剣を突きつけ威嚇する。
「…貴方に頼みたい事があるのです。ベイン・ローグ様」
馬の上から自分を見下ろすローグの前で膝を折り、頭を下げるジーク。
ベインは突然跪いた彼に不機嫌そうに眉を潜める。
しかし彼は何か思いついたのか、口の端を吊り上げ嫌味に笑うと馬から降りた。
「彼を捉えろ」
兵士に命ずる彼は両腕を取られ身動きのとれないジークに歩み寄る。
斬られた腹から血が溢れ、着ていた白いシャツが真っ赤に染まっていた。
「頼みとは何だ、ジーク・ブロッガー」
身動きの取れない今なら、彼を簡単に殺す事もできる。
シェノーラを我が者にする為には邪魔な存在である彼を今直ぐにでも殺してしまいたい。
だが、死ぬ前に頼みの1つ訊いてやろうと、ローグは殺意を抑えジークに問のだった。

