「あのー、用事って、荷物持ちのことやったん?」

職員室の前で、山積みのノートを抱える彩華は不満そうに言った。もちろん、私と玲もノートの束を抱えている。

「荷物運びって言うてくれればクラスの男子たちにやらせたのに…。」

不満たらたらである。

「文句言わないの、そういう約束だったでしょ。」

「そやけど。」

先ほどよりも、一層不満そうな顔をする。

「ほら、そう言っている間に、そろそろ着くよ。」

私たちは、教室の近くまでノートを運ぶ。廊下の突き当たりに差しかかったところだった。

「うわぁっ。」

「きゃっ。」

角から走ってきた男子生徒とぶつかった。私は思わず、後ろに倒れる。

「うぐっ。」

倒れた時に、右手を変についてしまった。手首には、痛みが走る。

「うぅ。」

「大丈夫!?沙耶。」

玲はそう言って私の目を覗き込む。

「ちょっとアンタ!危ないやろ。謝らんかい。」

彩華はもの凄い剣幕でその男子に言った。その男子は怯えながら謝ったが、彩華がさらにすごい剣幕で怒鳴ると、男子生徒は。泣きながら謝り、逃げていく。

「す、すみませんでしたー。」

「まったく、男のくせによう泣くわ…。」

彩華は呆れ顔で言い放った。

「泣かせたのは彩華だけどね。それより沙耶、大丈夫?」

玲は心配そうにしている。

「ちょっと手首捻っただけだから、大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃないでしょ、そんなに赤く腫れているのに。早く保健室行こ。」

私の右手首を見た玲は、血相を変えてそう言ったが、私は二人に迷惑をかけたくなかった。

「もう授業始まっちゃうし、一人でいくよ。二人とも教室に戻って。」

「私たちもついて行くよ。大事な沙耶が心配だもの。大丈夫だよ、出席日数、余裕あるし。」

冗談のように玲がそう言うと、彩華も笑いながら玲に続けた。

「ウチも心配やからついて行くで。べ、別に授業サボりたいなんて思ってないんやからな。ホンマやで?」

「ホラ、早くいこっ。」

玲はそう言って、私を急かした。

「ちょっと待ってよー。」

私は、二人の気遣いに甘えることにした。