「顔合わせって、これだったんですか?」

「実は…、私もよく詳しい話は聞いてないんですよ、すいません。」

帰りの車の中、後部座席の窓から見えるのは、動きだした街の雑な姿。
ただ、茫然と旗を振る警備員や黙々と道路工事をする作業員。
パチンコ屋の前で、携帯電話で話をしている中年男性。

「取締役から日給で出しておくように言われましたので、事務所に着いたら、給料を貰って帰っていいですよ。ところで、私が聞くのも何なんですけどね。」

「何ですか?」

「取締役からどんな話をされたんですか?」

営業の男性は信号待ちをしているとき、バックミラーを覗き込みながら、少し訝しげに聞いてきた。

「うーん、現場の意見を聞かせてくれ、とのことでした。」

「そうですか…。」

信号が青に変わり、車が動き始めたとき、ため息がもれるのが聞こえた。

本当は口外しないでほしい、と取締役に言われたのだ。あくまでも、趣味だからと。

だとしても、ただものまねが見たかっただけとは思えない。大体、渡辺さんはクスリとも笑わず真顔のままだったし。

「よくわかりました。頑張ってください。」

そう言われただけだった。いったい何がわかったのだろう。
なぜ、総理大臣のものまねだけリクエストしたのだろう。
それになぜこの営業の男性にすら口外してはならないのか。