「あ、棗きたー!」

 花火の当日。集合場所に着くと、何人かの男女がそろっていた。

「俺、遅れた?」
「いや、全然大丈夫! よし、棗来たし、花火やろうぜぃ!」
 一真の声で、周りに居る奴等はさっそく花火を手に持ち、遊び始めた。
 俺も花火を手に持てば、回りを見渡した。
「…あ」
 白石も来てる。
 
 白石とは…あの日以来、何も話してない。
 …俺には関係ない、か。
「…」
 ――何故だ。関係ないはずなのに、どうしても白石を見てしまう自分がいる。

「…別に、御前が一人でかわいそうだなぁーって思っただけだから」
 気づけば、俺は白石が座るベンチに座っていた。
「か、かわいそうじゃないもん」
「…そ」
 それからしばらく、沈黙が続いた。

 …やっぱり、何で泣いていたのか気になる。
 もし辛いことがあったのなら、俺が助けてやりたい――。

「御前…なんであんとき、泣いてたの?」
 これは…聞いてもいいのか分からないけど。
「…え? あー…あぁ、あの時ね」
 白石は、苦笑いで答えた。
「なんでもないよ! なんか、心配かけちゃった?」
「…べ…別に、心配なんてしてねぇ…」
「ふーん。そっか! でもまぁ…ありがと!」
「…おぅ」
 なんだ…なんでもないのか。心配した俺が恥ずかしい…。
「…ねぇ、好きな人いるの?」
「は!?」
 話を変えようと、はじめに口を動かしたのは白石。
 …いきなりの質問に、驚く俺。
「いるの?」
「俺ー…のー…?」
「そうだよ?」

 …俺って好きな人いるのか?

いや、いないでしょ。

「ん、いないけど」
と、答えてみた。
「そぉっか」
「…じゃぁ、御前は? 好きな人いるの?」
「あたしー? んー、いるっぽいなぁ」
「へぇ。…ま、頑張ってよ」
 
 みんなと一緒に花火をやる為に集まった筈。俺等は別世界にいるようだった。


 白石が泣いていた原因は分からないけど、きっと、大丈夫だろう。
 白石が教室で笑っていた笑顔と、今俺の隣での笑顔は、何かが違った。
 今の笑顔は、ちゃんと笑っていた。
 …多分、だけど。