「棗ー? 聞いてる?」
 一真の声で我に返った。
「あ? え? 何?」
「いや、別に何でもないけどさ。棗、ボーっとしてたから?」
「…あー、あぁ、別に。考え事してただけだよ」

俺はそう言うと、自分の席にすわった。
「…ふぅ」
 …白石、大丈夫そうだな。何で泣いてたのか…気になるけど。


 この日から…きっと俺の心は動き始めていたんだ。




「っだー!! 暑い…」

 夏休みに入り、ダラダラとした生活が始まった。
 …俺は暑いのが嫌いだ。…寒いのも嫌いだけど。
「棗、棗ーっ! 何か遊ぼうよぉ」
 そう言って甘えてくる一真。

 今日は…何故か一真が俺の部屋にいるのだ。まぁ…多分遊びに来たんだろう。
「んー…暑いからいやだ…」
「せっかく俺が相手してやろーと思ったのにーっ」
「…ん、いや、相手してほしいなんて言ってないような気がする…。ってか、彼女んとこ行けばいいじゃん?」
 俺はそう言うと、扇風機の前に座った。
「今日は彼女用事あるんだよぅ。昨日ラブラブしてきましたぁ」
「…あーっそ」

 別に、羨ましくなんかない。…別に…。
なんて思っていたら、
「羨ましいだろ」
「ばーか。羨ましくなんかねぇよ…。暑いし」
「夏の暑さよりも俺の愛の方が熱い!」
 何言ってんだ…こいつ。
「むあ…サイダー温い…」
 キンキンに冷えてたサイダーは、今はもう、温い。

 
 冬の寒さって、どんな感じだったっけかなぁ…。
 風呂上り。ベランダに出て星をみたとき、ふと思った。
「…朝も昼も夜も暑さなんて変わんねぇな…」
 冬って寒いんだっけ? 夏こんなに暑かったら冬そんな寒くねぇだろ。…あー、春も夏も秋も冬も嫌いだ。…いや、秋は好きかな。…って、俺何考えてんだよ。

 部屋に戻り携帯を覗くと、一通のメールがきていた。

『一真』

「…一真か…」

【棗ー! あのさ、来週の水曜日、花火やろうよ。俺の彼女もいるけどさ! まぁ、3人じゃ寂しいから、俺が色んな奴集めておくよ! 返事まっとるよん♪】

 あー…花火ー…?
 ま…暇だし。

『あいよー。じゃぁ、人集めておいて』
と、返信した。