「・・・お前、ちょっとこっち来い。いいとこ連れてってやる」
「いいとこ?」
ここは病院だよ?俺は入院している身だし。
兄貴何言ってんだろ・・。
「悠真、久しぶりだな」
「おお、響大!久しぶり!」
何故か兄貴に連れてこられたのは小児病棟だった。
兄貴と話してるのは・・・小児科の先生かな?
「あ、もしかしてこの前言ってた弟くん?」
「おう。奏大っていうんだ」
「よろしくね、私は小児科担当の橋本悠真だ」
何故か紹介されて、手を差し出された。
「あ、東雲奏大です・・・えっと、橋本先生」
「堅苦しいから悠真先生でいいよ。子供たちもみんなそう呼ぶからさ」
悠真先生ね・・・。
兄貴の知り合いだよね?
「奏大くんにお願いがあるんだよ」
「・・・お願い?」
「子供たちに、ピアノを聴かせてあげてほしいんだ」
「え?」
話を聞けば、小児科病棟に入院している子供たちを勇気づけるためにピアノを弾いてほしいとのこと。
勇気づける・・・?俺が?
「そんな大層なこと出来ないです・・・」
「ははっ!そう重くとらえないでくれていいんだよ。奏大くんが暇なときでいいんだ。薬の副作用もあるだろう?体が辛くなったら弾かなくてもいいし。ここにいる子供たちは入院生活も長くてね、たまにちょっとした刺激があるとすごく喜ぶんだ」
今までは・・みゅうのために弾いてきたピアノ。
みゅうと離れてから、一度も触れていなかった。
ピアノに触れるのはみゅう抜きでも好きだ。
だけど、誰のために弾いていいか分からなくなって・・ピアノを見る勇気すらなかったんだ。
それに、入院中にピアノを弾く機会なんて普通ないだろうって思ってたし。
「いいじゃねぇか。お前にも気晴らしは必要だろ」
兄貴が俺の肩に手を置いた。
何を、弾けばいいんだよ。
みゅうのための曲しか弾いてこなかったのに・・・。
「・・・お前が病気になったからってあの子への想いを断ち切る必要ねぇんだから。いつも通りあの子のための曲を弾けばいいだろ」
兄貴・・・・・。


