アレイド「……おー……いたた」

アレイドは殴られた頬をさすりながら上半身を起こす。
一方的な暴力にも関わらずアレイドはそれが当たり前といった風だった。

フィル「……お前、何をしたか分かっているのか」

アレイド「んー、まぁ誘拐かな」

一度殴った事で冷静さを取り戻したのか、フィルは声を抑えてアレイドに問う。
しかし答えはふざけたものしか返らない。

フィル「貴様はっ……!」

せっかく冷静になったフィルをまた苛立たせ、また胸ぐらを掴ませてしまう。

そしてまた、拳が作られる。

シルク「やめ────」


アレイド「来た」


が、今度は拳が止まった。
シルクの小さな声によってではなく、アレイドが呟いた独り言によって。

フィル「この期に及んでまだ嘘を吐くか! なんて卑しい奴なんだ貴様は!」

アレイド「そう思うんならそれでいい」

一転して一変するアレイド。
一変して一転する展開。

アレイドは無表情で掴まれた手を払い除け、また無表情のまま淡々と口を動かした。

アレイド「行くも行かないも自由だ」

フィル「は?」

戸惑う。
フィルの目には、アレイドがどうしたって嘘を吐いたようには映らなかった。それどころかフィルを無視する素振りで、嘘か否かは関係なくなっていた。

加えてフィルかシルクか、それとも二人に宛てたのか分からない言葉を残されては、不可解と言わざるを得ない。

理解に至る必要はない。
そうとでも言うか、アレイドは瞬時に立ち上がるや否やどこかを目指して駆けていくのだった。

フィル「な────お、おい」

状況が読めない。
そういった様子で、残された二人は呆然とする以外なかった。