男が二人いた。
内、人並みを外れて巨体の男は頭に血を昇らせ、人並みな体格の男は沈着冷静だった。

二人は対峙していた。外面的にも。
意見が噛み合わず意思疎通が図れないのは第一として、相互に“仲良くする”などという要素を持ち得なかった。

フィル「貴様は────」

憤怒する男は先程からそればかりだ。貴様貴様と罵るかのように大声を張り上げたところで何かが進展する訳でもないというのに。
……まあ、つまり。
それ程までに男は昂楊していた、と言えるのだろう。

だからか、男は言葉を並べるのをやめ、力を行使するに至った。

その男────フィルはもう一人の男────アレイドの胸ぐらを片手で掴み上げ、さらに片手は拳を作ってアレイドの顔面へ。

シルク「ぁ、あ……!」

その時、二人の男の他にもう一人、小さな女が声を揚げた。
それは“やめて”とでも言いたげな静止を求めるような表情で発せられた声であった。

しかし“やめて”とは言えていない。

実際、女は静止を求めていた。
そう、ただ求めただけ。
自らが静止させるでもなく、男二人へ静止を請うのでもなく、静止してほしいと心に思っただけに過ぎない。

その女には勇気がない。
意思が弱い。
意志が脆い。
意識が薄い。
自身の“立場的な精神”に反してどこまでも内向的だったのだ。

……正確に言えば。否、言葉が足りたのなら。
フィルの憤怒、その後の暴力を抑制し、アレイドへの被害を無に出来たのかもしれない。
それは静止の出来ぬ女────シルクがよく理解していた筈だったのだが。

それ故、フィルの拳は静止することなく。アレイドは顔面に拳の直撃を被るのであった。

アレイド「ぶ────」

フィルの暴力にアレイドが吹き飛ぶ。
背中から地面へ落ちる。

シルク「ぁぁっ……」

求めて、黙って見ているだけ。
可能性を持ち得ながら、無碍にして諦観するだけ。自分からは何もしない。
ある意味では、それが本当の“お姫様”の在り方なのかもしれない。