だだだ、と短距離走に挑む私。
手や腕など上半身の動きはともかく、下半身である脚の動きにはあまり自信がない。たぶん、運動不足が原因なのだろうかと。うーん。

トラックは路地裏などかなり人目の少ない場所で、その距離は約100m程。直線ではないのでタイムは悪し。アスリート的には……うーん。

ではなくて。
私、私たちは好きで短距離走をしているのではなく、楽しんでいるのでもなく。
魔物が現れたと言うのにどこへやらと逃走中なのです。

アレイド「ま、ここまで来れば大丈夫だろ」

シルク「はぁ、はぁ……お、落ち着いた、場所って……一体」

アレイド「要約して言えば、四面楚歌の状況打破だな」

シルク「────はい?」

アレイド「だから、俺たちはあの群れから逃げ出したってコト。フィルを囮にしてな」

シルク「え────で、では魔物は」

アレイド「ヤツ、とは言ったが魔物とは言ってねぇな」

シルク「爆発音は」

アレイド「ありゃ俺の魔法。おかげで逃走経路確保ってワケだ」

シルク「はぁ……」

……確かに。
群衆(防壁)は新たな騒ぎに惹かれて流れて行った。おかげで私たちが逃げる隙、逃げる道が確保出来た訳で。……代替としてフィルを犠牲に。

憐れフィル。でもごめん。でもありがとう。大義……そう、きっと大義だったよ。

アレイド「じゃ、行こうぜ」

シルク「は、はい」

納得したら即おしまい。
結果として行方不明なフィルに後ろ髪引かれる思いを残しながらも、大義を無駄にしない為に前へ進もう。……というのは言い訳なのですが。

アレイドはゆっくりと歩き出し、私もまたゆっくりと背中を追った。

紅の外套、と言うと何だか格好いい、赤より少し濃いような色の上着を揺らし、赤より淡い橙の色をした髪が爽やかに揺れて。だからイメージは赤で、太陽と表現すればぴったりなアレイドの姿。眩しくて大きい背中は、正に元気の源と言ってもいいと私は思う。

……気が付けば、その背中はいつも大きくていつも私の前にあった。

思い出す────少し前の話だ。