「あぁもうっ! この、この!」

フィル「む、むぅ?」

人が襲われていた。確かに襲われていた。
大空を悠々と飛行する黒い翼に、存外に鋭い爪を持った大群の鳥たちに。

何を見間違うか……それらは魔物などではなく、カラスとしか考えられない。

「性懲りもなく! いい加減にしなさいったら!」

襲われる中年女性の傍らにはポリバケツや大量の袋の山があり、カラスの姿と行動から判断するにそれらはゴミである。
正確に言えばカラスが襲っているのはゴミであり、女性はその行動を妨害している。
……フィルが直面したのは、ほぼ日常的な光景なのであった。

フィル「ま、魔物は……いない、のか?」

「ちょっとそこのオジサン、ぼーっとしてないで手を貸しなさい!」

フィル「何だと!? 私はまだまだ」

「えぇい黙れ黙れ! さっさとしろバカモノ!!」

フィル「むぅ……!」

一喝され睨まれ命令され、フィルは呆気なく敗北を喫した。
その後、箒を片手に魔物ではなくカラスと戦い、

「ちゃんと追い払え! 腰が抜けてんのよ! 腰が!」

「鈍い、鈍すぎるわアンタ! 所詮は中年オヤジね!」

「バカ! そこやられてる! 手を休めるんじゃないわよ!」

などなど、協力者に対する激励(完全なる罵倒)とも戦いながらフィルは尽力するのだった。

ある意味コイツが魔物だったのでは、などと負け惜しみ気味に思ったのは秘密である。