「やっぱそうか。シルクだシルク。ほら、シールクー。こっち向いてくれー」

……なんで?
優しい声は“シルク様”と呼ばない。みんな“シルク様”と呼んでたのを知ってるはずなのに、お姫様扱いしてたのを知ってるはずなのに、何も躊躇わず“シルク”と呼んでいる。

────今度は、優しい声に振り向かずにいられなかった。

「はは、やっと向いてくれた」

恐る恐る振り向いてみれば、彼は驚くほどすっきりした笑顔で私を迎えてくれた。
どうしようもなく優しい笑顔。
なのに痛くない。
なのに辛くない。
……なんでだろう。
私の顔はくしゃくしゃになってしまう。

「……はぁ。もったいない」

彼の笑顔が────抱き締めるような優しさが私の胸を打つ。辛かったはずなのに、今は素直に受け入れられる。

彼の“優しさ”は、やはり優しかったのだ。

だからかな。私はまた大粒の雨を降らせてしまう。

「そんな顔しちゃ、カワイイ顔が台無しだっての」

彼は軽く窘めると、上着の袖で私の涙を払い取ってくれた。
……不思議な事に。
拭っても拭っても溢れ続けていた涙は、嘘みたいに止まってくれた。

「ほら、シルク」

彼の顔をまじまじと見つめてみる……けれど、笑顔が眩しすぎて直視できない。

そうだ、彼は太陽だ。
どんなに曇っていたって、明るく照らし出してくれる光だったんだ。

「笑顔笑顔」

だってそうでしょう?

大雨だった私の天気は、
清々しい快晴になったのだから。