「────っ、ぬあっ……!」

異形の吹き荒ぶ暴力的な攻撃。
為す術もなく流される人体。
直結したモノは同じでも、受動と能動とでは結局別物に過ぎない。

「……お父、様っ……」

その傷だらけの人間は他でもない、震えて動く事すら出来ないその姫君の父親、即ちこの城の王、スレッド=スターライトだった。

しかも傍らには母親、コットンの姿も。ただ既に意識はなく、床に倒れていることしかできない。

スレッド「シ、ルク……!? 何故、ここに……!」

危機的状況に更なる不運。
激しい抵抗も虚しく異形に為れるがままに虐げられ、ゴミのように軽く床に投げ出され、もう重くなり始めた瞼を押し上げれば……大事な娘、シルクが愕然として佇んでいるではないか。この状況下では、崖の淵に立っているのと同義ではないか。

どんなに傷を負いながらも、そんな娘を放っておける筈はない。

スレッド「早く逃げなさい! ここがどれだけ危険か分かるだろう……!」

シルク「ぅ……ぁ」

スレッドは必死に叫んだ。
おかげでシルクの凍ったような足は自由を取り戻し────しかし父の意志を汲み取る事は出来ず、有ろう事か前進した。崖に、自ら飛び込んでしまった。

“────!”

当然とでも言うべきか、飛び込んだ崖下には魔が棲む。
異形は、
ぐるり、と図太い首を捻って新たな獲物を捕捉。興奮して雄叫びを上げ、重そうな身体を嬉しそうに奮い起こした。
牛、ならば後ろ足を蹴り上げ、頭を突き出して襲い来るだろう。

ずん、ずん。

本当にその通りだ。
荒れ狂って見境なしに、ただ標的のみを見据えて突進し始めた。

シルク「──、ぁ、」

スレッド「……っ、この化物め! 娘に近付くんじゃない!」

だが、突進を黙って許す父ではない。
王は唯一の武装であった槍を手に、今出せる精一杯の勢いをつけて打ち出す。投擲の要領で投げられた刃はその鋭利な先端を研ぎ澄まし、

そして、
狙い定かに暴漢の眼を貫いた。

“、、、、、”

おおん、と悲痛の唸り声が部屋中を駆け巡り、牛はもがき苦しんで停止した。
眼、らしき箇所からは血、らしき液体が際限なく溢れ、床はその色へと染まりゆく。