「侵入者だーーーー!!」


ところで。
城中に響き渡る注意警報。
その太くて低い声は、中年の男性が持ち得るようなものかもしれない。それは少しばかり、異質なのかもしれない。
……この城には幾人もの兵士が雇われている。それらは皆、若々しい青年たちであって、毎日欠かさず稽古に励む粒揃いの努力家たちだ。
稽古というのは武術の修練。
槍を用いた中距離戦闘を学び、体感し、実践して、己が身体を鍛え上げる。それが兵士たちの目的、またこの城の方針なのである。
故に、若者ばかりが雇用を求めて集う。中年の男性など、清々しい青年たちに囲まれては場違いだと思われるのだ。

「────、」

何処かを走っているのであろう足音は、徐々に少女が覗く窓へと近づいている。
彼女は興味を持ったのか、無音のまま身を乗り出して足音の主を探し出した。

「だあっ、俺が何をしたって言うんだよ! 無実だ! 無害だ! 潔白だーーー!」

「では何故逃げる!? 怪しい、やましいぞこいつ! どうやら傷めつけてやらんと判らないようだな!」

「うっわ、そーゆーコト言うと余計に逃げたくなるって!」

だが浅い瞳で見たその情景は、既に角を曲がって消えていた。二人いたはずであった声の主も、目に捉えたのは一人の後ろ姿だけだった。

「────」

少女の中で記憶が呼んでいる。

少女は音も無く立ち上がり、踵を返して入口である扉を見据えた。

────星の輝きにも似た髪が揺らぎ。風に靡く様子は尚も美しさを強調する。

そして何かに導かれるように、静かに足取りを進ませていくのだった。