さっそく日根野にいうと、「江戸の北辰一刀流がいいでしょう。あの子なら剣術道場をもてます」と太鼓判をおす。
「千葉周作先生のところですな?」
名前ぐらいは知っている。「そうですきに」 坂本家は土佐一番の金持ち郷士だったが、身分は、家老福岡家御預郷士、ということであり、江戸にいくには藩の許しが必要だった。
八平はさっそく届けを出した。
「龍馬、よろこびやれ! ゆるしがでたぜよ!」
乙女が龍馬の部屋に駆け込んで笑顔になった。
「はあ」と龍馬が情なくいう。「ノミが口の中にはいった…苦か」
……やはり龍馬は普通じゃない。
龍馬がいよいよ江戸へ旅たつ日がきた。嘉永六年三月十七日のことである。
坂本家では源おんちゃんが門をひらき、提灯をぶらさげる。父・八平は「権平、龍馬はどこじゃ?」ときく。
「さぁ、さきほどからみえませんが…」
龍馬は乙女の部屋にいた。別れの挨拶のためである。しかし、「挨拶はやめた」という。「どげんしたとです?」乙女は不思議がってきいた。
龍馬はいう。「乙女姉さん、足ずもうやろう。こどものときからふたりでやってきたんだから、別れにはこれがいい。それとも、坂本のお仁王様が逃げるきにか?」
「逃げる? まさか!」
乙女は龍馬の口車にのってしまう。「一本きりですよ、勝負は」
乙女はすそをめくり、白いはぎを出して両手でかかえた。あられもない姿になったが、龍馬はそんな姉をみなれている。
「千葉周作先生のところですな?」
名前ぐらいは知っている。「そうですきに」 坂本家は土佐一番の金持ち郷士だったが、身分は、家老福岡家御預郷士、ということであり、江戸にいくには藩の許しが必要だった。
八平はさっそく届けを出した。
「龍馬、よろこびやれ! ゆるしがでたぜよ!」
乙女が龍馬の部屋に駆け込んで笑顔になった。
「はあ」と龍馬が情なくいう。「ノミが口の中にはいった…苦か」
……やはり龍馬は普通じゃない。
龍馬がいよいよ江戸へ旅たつ日がきた。嘉永六年三月十七日のことである。
坂本家では源おんちゃんが門をひらき、提灯をぶらさげる。父・八平は「権平、龍馬はどこじゃ?」ときく。
「さぁ、さきほどからみえませんが…」
龍馬は乙女の部屋にいた。別れの挨拶のためである。しかし、「挨拶はやめた」という。「どげんしたとです?」乙女は不思議がってきいた。
龍馬はいう。「乙女姉さん、足ずもうやろう。こどものときからふたりでやってきたんだから、別れにはこれがいい。それとも、坂本のお仁王様が逃げるきにか?」
「逃げる? まさか!」
乙女は龍馬の口車にのってしまう。「一本きりですよ、勝負は」
乙女はすそをめくり、白いはぎを出して両手でかかえた。あられもない姿になったが、龍馬はそんな姉をみなれている。


