龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~

「庭にでなさい! あたしが稽古をつけちゃるきに!」
 これが日課だったという。また防具をつけなければならない。乙女はふりそでを襷でしばり、竹刀をもったきりである。
「今日のおさらい。龍馬!」
 今日ならったようにうちこめという。
「女子だと思ってみくびったらいかんぜよ!」
 みくびるどころか、龍馬の太刀を乙女はばんばんとかわし打ち込んでくる。龍馬は何度か庭の池へ突き落とされかける。はいあがるとまた乙女は突く。
 父・八平がみかねて「乙女、いかげんにせぬか」ととめる。
 すると乙女は「ちがいます」という。可愛い顔だちである。
「何が違うきにか?」
「龍は雨風をうけて昇天するといいますから、わたしが龍馬を昇天させるためにやってるのです。いじめではありませぬ」
「馬鹿。わしは龍馬が可哀相だといってるんじゃなかが。お前がそんなハッタカ(お転婆娘)では嫁入り先がなくなるというとるんじゃきに」
「……わたしは嫁にはいきませぬ」
「じゃあどうするんじゃ?」
「龍馬を育てます」
「馬鹿ちんが。龍馬だってすぐ大きくなる。女子は嫁にいくと決まっておろう」
 乙女は押し黙った。確かに…その通りではある。
 ………龍馬は強い!
 こう噂されるようになったのは日根野道場の大会でのことである。乙女も同席していたが「あれがあの弟か?」と思うほど相手をばったばったと叩きのめしていく。
 まるで宮本武蔵である。
 兄・権平や父・八平も驚き「これはわしらの目が甘かった。龍馬は強い。江戸へ剣術修行をさせよう。少々、金がかかるがの」といいあった。
「あの弟なら剣で飯が食えます。江戸から戻ったら道場でもやらせましょう父上」