……坂本の泣き虫も二十歳か……
われながら自分を褒めたい気分にもなる。しかし、女をしらない。相手は「坂本さん! 坂本さん!」とそそってくるさな子でもよかったが、なにしろ道場主の娘である。
女を知りたいと思うあまり、龍馬はお冴のわなにはまってしまう。
国元でも「女との夜」についていろいろきいてはいた。まるで初陣のときと似ちゅう… とはきいていたが、何の想像もつかない。
遊郭でお冴に手をひかれふとんに入った。お冴は慣れたもので龍馬を裸にして、自分の服も脱いで「坂本さま」と甘い声をだす。
そんなとき、龍馬は妙なことをいいだす。「……わしの一物が動かんぜよ」
「まぁ、本当」
お冴は笑った。龍馬は余りの興奮でインポテンツになってしまったのだ。
「これじゃあ……お冴さんのあそこを突くことも出来んきに…」
龍馬は動揺した。お冴は父親の仇を討ってくれとも頼んだ。
それっきり、龍馬は夜の行為ができないままだった。
さな子はそれをきいて笑ったが、同時に嫉妬もした。「あたしが相手なら大丈夫だったはずよ」さな子は龍馬にホレていた。夜のことまで考えていたくらいである。
お冴とは二度目の「夜」をむかえた。
こんどは勃起したが、突然、大地震が襲いかかってきた。
安政元年十一月三日、江戸、相模、伊豆、西日本で大地震がおこった。
「いかん」
龍馬はとっさに刀をひろいあげて、「お冴、中止じゃきに」といった。
立ってることもできない。
大揺れに揺れる。「逃げるぜよ! お冴!」龍馬は彼女の手をとって外にでると、遊郭の屋敷が崩壊した。
「あっ!」
お冴は龍馬にしがみついた。
……これは大変なことになっちゅう。土佐もどうなったことじゃろう…
龍馬の脳裏にそんな考えがふとよぎった。
………土佐に帰ってみよう


