龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~


 象山は馬にのった。龍馬は人足にバケて、荷を運んで浦賀へと進んだ。
 途中、だんご屋で休息した。
 坂本竜馬はダンゴを食べながら「先生は学識があるきに、わしは弟子入りしたんじゃ」「おい坂本」象山はいった。「日本はこれからどうなると思う?」
 龍馬は無邪気に「日本はなるようになると思いますきに」と答えた。
「ははは、なるようにか? ……いいか? 坂本。人は生まれてから十年は己、それから十年は家族のことを、それから十年は国のことを考えなければダメなのじゃぞ」
 佐久間象山は説教を述べた。
  やがてふたりは関所をパスして、岬へついた。龍馬は圧倒されて声もでなかった。すごい船だ! でかい! なんであんなものつくれるんだ?!
 浦賀の海上には黒船が四船あった。象山は「あれがペリーの乗るポーハタン、あちらがミシシッピー…」と指差した。龍馬は丘の上に登った。近視なので眼を細めている。
「乗ってみたいなぁ。わしもあれに乗って世界を見たいぜよ!」
 全身の血管を、感情が、とてつもない感情が走り抜けた。龍馬は頭から冷たい水を浴びせ掛けられたような気分だった。圧倒され、言葉も出ない。
 象山は「坂本。日本人はこれからふたつに別れるぞ。ひとつは何でも利用しようとするもの。もうひとつは過去に縛られるもの。第三の道は開国して日本の力を蓄え、のちにあいつらに勝つ。………それが壤夷というものぞ」といった。
  その年も暮れた。
 正月から年号が嘉永から「安政」にかわり、龍馬も二十歳になった。
 龍馬にとっては感慨があった。