龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~

 江戸での月日は早い。
 もう、龍馬は免許皆伝まじかである。
 そんな千葉道場主の貞吉の息子重太郎には、さな子という妹がいた。二つ違いの妹であり、幼少の頃より貞吉が剣を仕込み、免許皆伝とまではいかなかったが、才能があるといわれていた。色が浅黒く、ひとえの眼が大きく、体がこぶりで、勝気な性格だった。
 いかにも江戸娘という感じである。
 そんな娘が、花見どきの上野で暴漢に襲われかけたところをおりよく通りかかった龍馬がたすけた、という伝説が土佐にはあるという。いや、従姉だったという説もある。
 龍馬はさな子を剣でまかした。
 その頃から、さな子は龍馬に恋愛感情を抱くようになる。
 さな子が初めて龍馬をみたときは、かれが道場に挨拶にきたときだった。
「まぁ」とさな子は障子の隙間から見て「田舎者だわ」と思った。
 と、同時に自分の好むタイプの男に見えた。ふしぎな模様の入ったはかまをきて、髪はほうはつ                
篷髪、すらりと背が高くて、伊達者のようにみえる。
「さな子、ご挨拶しなさい」父に呼ばれた。
「さな子です」頭を下げる。
「龍馬ですきに。坂本龍馬ですきに」
「まぁ、珍しい名ですね?」
「そうですろうか?」
「ご結婚はしてらっしゃる?」さな子は是非その答えがききたかった。
「いや、しとらんぜよ」
「まあ」さな子は頬を赤らめた。「それはそれは…」
 龍馬は不思議そうな顔をした。そして、さな子の体臭を鼻で吸い、”乙女姉さんと同じ臭いがする。いい香りじゃきに”と思った。
 さな子はそのときから、龍馬を好きになった。