龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~


                 
  お田鶴はそれをきいて、宿から浜辺へいった。
「まぁ、やはり坂本のせがれじゃ」
 お田鶴は、砂の上にすわった。土佐二十四万石の家老の妹だけあって、さすがに行儀がいい。龍馬は寝転んだままだ。
「龍馬どのとおっしゃいましたね?」
「そうじゃきに」
「江戸に剣術修行にいらっしゃる」
「そうじゃ」
「兄からいろいろきいています」
 龍馬は何もいわなかった。
 坂本家と福岡家は、たんに藩の郷士と家老というだけの間柄ではない。藩の財政が逼迫したときは、家老は豪商の坂本家に金をかりてくることが多い。このため坂本家は郷士の身分でありながら家老との縁は深い。
 ちなみに坂本家の先祖は、明智左馬之助光春だったという。明智左馬之助は、信長を殺               
した明智光秀の親類で、明智滅亡後、長曽我部に頼って四国に流れついた。
 そこで武士にもどり、百石の郷士となった。
 坂本という、土佐には珍しい苗字は、明智左馬之助が琵琶湖のほとりの坂本城に在城していたことからつけられたのだという。
「龍馬どの。こんなところにいられたのでは私が追い出したように思われます。宿にもどってください」と、お田鶴がいった。
「いいや。いいきにいいきに。わしはここで十分じゃきにな」
 龍馬はそういうだけだ。